犠飛と犠打


 
攻撃ポイントの算出方法に対し、数名の方から進塁打・得点打である「犠牲フライ」や「犠牲バント」を凡退と判断していることへの疑問やご意見を頂戴しました。
この点に対しての考え方を述べさせていただきたいと思います。
 
1.得点期待値(Run Expectancy)

ジョージ・リンゼイ(George Lindsey)の1963年発表の論文に、アウト数と走者の状況別の得点期待値(Run Expectancy)が掲載されました。 これは1959-60年のMLBの試合のプレーを調査し、プレー前の状況(アウト数とどの塁に走者がいるか)毎に、そのイニング終了時に何点を獲得したのかを集計したものです。

例えば、イニングの始めである無死・無走者の場面では「0.461点」の得点が期待できます。これは1イニング当りの平均得点が0.461点であることを示しています。
(但し、リンゼイの集計は、0点、1点、2点、3点以上、の4パターンで集計されている為、4点以上のケースも3点としてカウントされており、正確な得点期待値とはなりません)

先頭打者が出塁した無死・一塁になると「0.813点」、無死・二塁では「1.194点」、無死・三塁では「1.390点」と得点確率は高まります。次打者が凡退すると一死・一塁が「0.498点」、一死・二塁が「0.671点」、一死・三塁が「0.980点」とダウンします。

リンゼイの論文には、無死・無走者から二死・満塁まで24パターンの得点確率と得点期待値が掲載されました。
これを使用し、犠牲フライ(犠飛)を評価します。
なお、データは「メジャーリーグの数理科学(上)」(J.アルバート/J.ベネット著、加藤貴昭訳、シュプリンガー・フェアラーク東京、2004年)記載のものを使用。

 
2.犠牲フライの検証

具体的には犠牲フライの前後での得点期待値の変化を調べます。上記の例で無死・三塁の期待得点は「1.390点」なので、犠牲フライの後の得点期待値が「1.390点」を超えていれば犠牲フライは得点の拡大に貢献しており、「1.390点」を下回る場合には得点に対する減少効果があることを示します。

プレー前(無死・三塁) ・・・「1.390点」
プレー後(一死・無走者)・・・「0.243点」+犠牲フライによる得点「1点」=「1.243点」

プレー前と比較し、「▲0.147点」減少しているので、無死・三塁からの犠牲フライは得点期待値を低下させます。
(凡退した場合の一死・三塁は「0.980点」で「▲0.410点」、出塁した場合の無死・一三塁は「1.940点」で「+0.550点」)

犠牲フライが発生する状況と、犠牲フライ後の状況の得点期待値の比較をまとめたのが下表です。

プレー前 プレー後 変化
状況 期待値 状況 期待値 得点 期待得点
1B 2B 3B 得点 1B 2B 3B 得点
0 outs 1.390 1 outs 0.243 1 -0.147
1.940 0.498 1 -0.442
1.960 0.671 1 -0.289
2.220 0.939 1 -0.281
1 outs 0.980 2 outs 0.102 1 0.122
1.115 0.219 1 0.104
1.560 0.297 1 -0.263
1.642 0.403 1 -0.239

全8ケース中、得点期待値がプラスとなるのは一死・三塁と一死・一三塁の2ケースのみ。
この結果から、犠牲フライ(犠飛)は得点アップへの貢献は無いと判断しました。

なお、リンゼイのデータは1959-60年のものなので、MLBの1993-2010年のデータ、日本プロ野球(NPB)の2004-10年のデータでも検証しました。

MLB 1993-2010
プレー前 プレー後 変化
状況 期待値 状況 期待値 得点 期待得点
1B 2B 3B 得点 1B 2B 3B 得点
0 outs 1.433 1 outs 0.291 1 -0.142
1.853 0.562 1 -0.291
2.050 0.721 1 -0.329
2.390 0.963 1 -0.427
1 outs 0.989 2 outs 0.112 1 0.123
1.211 0.245 1 0.034
1.447 0.348 1 -0.099
1.631 0.471 1 -0.160
(出典:トム・タンゴ Tom Tango Run Expectancy Matrix, 1950-2010

NPB 2004-2010
プレー前 プレー後 変化
状況 期待値 状況 期待値 得点 期待得点
1B 2B 3B 得点 1B 2B 3B 得点
0 outs 1.392 1 outs 0.258 1 -0.134
1.757 0.523 1 -0.234
2.009 0.711 1 -0.298
2.253 0.940 1 -0.313
1 outs 0.953 2 outs 0.099 1 0.146
1.185 0.226 1 0.041
1.375 0.333 1 -0.042
1.594 0.454 1 -0.140
(出典: Baseball Lab Archives

ご覧のように傾向はリンゼイのデータと同様であることが判ると思います。

 
3.犠牲バントの検証

次に犠牲バント(犠打)を評価します。
犠牲フライと同様にプレーの前後で、得点期待値を比較します。

MLB 1993-2010
プレー前 プレー後 変化
状況 期待値 状況 期待値 得点 期待得点
1B 2B 3B 得点 1B 2B 3B 得点
0 outs 0.941 1 outs 0.721 -0.220
1.170 0.989 -0.181
1.433 0.291 1 -0.142
1.556 1.447 -0.109
1.853 0.721 1 -0.132
2.050 0.989 1 -0.061
2.390 1.447 1 0.057
1 outs 0.562 2 outs 0.348 -0.214
0.721 0.385 -0.336
0.989 0.112 1 0.123
0.963 0.626 -0.337
1.211 0.348 1 0.137
1.447 0.385 1 -0.062
1.631 0.626 1 -0.005
(出典:トム・タンゴ Tom Tango Run Expectancy Matrix, 1950-2010

こちらも、多くのケースで得点期待値は減少しており、スクイズバントを含む犠牲バントを成功させるよりも、普通に攻撃を続けた方が得点期待値は高くなることが判ります。

 
4.結論

以上の点を考慮し、攻撃ポイントと得点率の算出時に、犠飛と犠打を考慮しない(=凡退とみなす)こととしました。

もちろん、犠飛とスクイズは直接得点を記録するので何らかの考慮が必要でないかという疑問は残ります。
しかし、日本プロ野球の公式記録の犠打数は送りバントとスクイズバントを合算した数値であり両者を分離できないため検証を断念し、その上で上記の考察を理由としたというのが実際の流れとなります。


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