ドラフト会議 指名選手の実績分析


日本のプロ野球において、戦力補強の要となるのは(特定の球団を除くと)ドラフト会議での新人選手の獲得となります。
2020年度のドラフト会議では育成指名を含め123名の選手が指名され、例年通り「即戦力狙いで大学・社会人を指名した」とか「将来性重視で素材型の高校生を指名した」等々、各球団の補強意図が取り沙汰されました。
高校生、大学生、社会人選手の別や指名順位による差異について、実際にはどのような傾向があるのかを検証してみました。

データは2008年度から2019年度のドラフト会議(育成ドラフトを含む)で指名を受けて入団した1,197名の選手の、2020年度シーズンまでの一軍公式戦での成績。
戦力測定の基準は、投手は投球回数(但し集計時に1回未満の投球回は切り捨て)、野手は打席数としました。
入団前の経歴を、高校生、大学生、社会人、プロリーグに4分し、高校卒業後の専門学校等在籍者と海外の大学中退者は大学生に、高校卒業後のブランクが2年以上の者は社会人に、など個々の状況に応じて分類。 投手から野手へのコンバート者は年度毎の選手登録内容に従って集計。

1.入団前経歴別の実績(=実績合計÷入団人数)

入団者1人あたりの打席数/投球回数の平均値の変移を、入団からの経過年数によりグラフ化しました。
退団者や故障者なども含めた平均値(=1人入団させたときに期待できる打席数/投球回数)となっていますが、この傾向は選手登録者数や一軍出場者数で平均を算出した場合も大差ありません。

(平均打席数)
(平均投球回数)

打席数、投球回数ともに社会人・大学生は1年目から実績を残しており、即戦力となる選手が多いことがわかります。
育成に時間が必要とされる高校生は、投手では3年目から、打者としては5年目から大学生・社会人に追いついています。

入団から10年目までの戦力として評価した場合、打者については大学生は即戦力ですが成績が下降するのが早く、高校生は育成の時間が必要でも継続して成績を残し、社会人は安定して実績を残しています。
このデータから、成果期待値が最も高くなるのは社会人を指名するときで、大学生と高校生は稼働時期が異なるだけで成果期待値は等しいと判断できます。

投手については、大学生・社会人は即戦力、高校生も3年程度の育成期間を経ると同等の成績を残すようになりますが、実績低下の開始時期と低下曲線は高校生・大学生・社会人ともに一致しています。 従って育成期間が必要な分、高校生の指名は非効率となり、成果期待値は大学生、社会人の順で高くなります。

2.入団前経歴別の年齢毎の実績推移(=実績合計÷入団人数)

入団者1人あたりの打席数/投球回数の平均値の、年齢単位の変移をグラフ化しました。
前項1のグラフは年数を集計キーとしましたが、それを年齢に変更したものです。
18才から28才までの推移となり、社会人・大学生は21才以降からのスタートとなります。

(年齢別 平均打席数)
(年齢別 平均投球回数)

打者は24才以降の差異が少なく、年齢だけが変動要因となっているようです。
投手は大学生・社会人と高校生の間での乖離が大きくなっています。
高校卒業後に、大学や社会人のフィルターを通ることで選手としての選別機会が増えますが、打者の場合は高校卒業時の評価は正確で、投手は評価の精度が緩くなっているようです。

このことは指名傾向にも表れており、育成を除いたドラフト指名選手数は、
打者: 高校生184人、大学生128人、社会人72人、プロ9人、
投手: 高校生173人、大学生165人、社会人162人、プロ20人
となり、打者は高校生主体、投手は大学生・社会人主体となっています。

3.指名順位別の年齢毎の実績推移(=実績合計÷入団人数)

入団者1人あたりの指名順位別の打席数/投球回数の平均値の、年齢単位の変移をグラフ化しました。
上位指名は1位と2位、中位指名は3位と4位、下位指名は5位以下、育成は除外。

(指名順位別 平均打席数)
(指名順位別 平均投球回数)

ドラフト指名順位により実績に差異がみられ、上位指名選手の活躍が他を圧倒しています。
投手の中位指名と下位指名の差が僅少となっていますが、これは高校生において下位指名選手の実績が中位指名選手の実績を上回っていることによるもので、大学生・社会人では中位指名選手の実績が上となります。

4.ドラフト指名戦略

選手の実績を打席数と投球回数で評価した場合、という前提で考察します。

打者は、@入団前経歴の影響はない、A22才以降の年齢毎の実績差異が小さい、B指名順位が高いほど高実績、という傾向があります。
即戦力(=短期的補強)が必要であれば大学生・社会人を上位で指名、中期的補強であれば高校生を上位で指名することが重要です。

投手は、@入団前経歴に影響なく在籍年数の経過に比例して実績が低下する、A高校生は20才台前半に実績ピークを迎える、B大学生・社会人は毎年高い実績を残す、C在籍年数あたりの実績値は大学生・社会人・高校生の順に高い、D上位指名選手が高実績、という傾向があります。
即戦力(=短期的補強)が必要であれば大学生・社会人を上位で指名、中期的補強であれば高校生を中位・下位で指名することで対応可能です。

打者の主戦力は入団前経歴を問わず、計画的に上位指名で補強する必要があり、投手は即戦力として大学生・社会人を上位指名で、補強戦力として高校生を下位指名で補強する必要があります。

1位、2位で打者と大学生・社会人の投手を毎年指名、人数が必要な投手は中位・下位で高校生を中心に指名、という基本方針でドラフト会議に臨むことが効率的な戦略となりそうです。


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